ふと思い立って日本一周をまた試みてしまった。せっかくだから全都道府県一筆書でもしてみよう。そんな旅路の5日目。
※この投稿は以下の投稿の続きです。この投稿単体で読んでもよし、前の投稿だけ読んでからこの投稿を読んでもよし、day1から読んでもよしの投稿群です。
今から宿泊できますか
全都道府県一筆書をする人の朝は早い。
「今から宿泊できますか」
どこかから聞こえる声でぼくは目を覚ました。時計を見ると午前4時。まだ起きる予定の時間ではない。
「今から宿泊できますか」
また、声が聞こえた。寝起きの頭で状況を整理する。
大晦日の夜遅く、高知駅に到着したぼくはせっかくなのでインターネットカフェに入店した。荷物を下ろして人心地ついた辺りでちょうど年をまたぐ。次の日も早くから行動する予定だったので早々に眠りに就いた。そして、誰かの声で目を覚ましてしまったのである。
状況を整理してみたところで、何が起きているのかよく分からない。
「今から宿泊できますか……まじっすか」
少しずつ頭のもやが晴れてきて、声の内容が聞き取れるようになってきた。ぼくの入っているブースの近くにはちょっとしたスペースがあったので、どうやらそこで電話をかけているようだ。
「今から宿泊できますか……まじっすか」
恐らく、満室だったり今の時間からは無理と断られたりして「まじっすか」と返しているのだろう。終夜営業をしているインターネットカフェにこんな時間から入っておきながら、新たに宿泊先を探しているのはどういうことなのだろう。……怪しい、事件のにおいがするぞ……。
朝まで仮眠するだけなら現状維持でいいはずだ。例えば、マッサージチェアのシートしか空きがなかったりして、どうしても横たわりたいからホテルを探しているという可能性はどうか。それにしては執念深く何回も電話をかけている。
「今から宿泊できますか……まじっすか」
断られた回数も分からないほどになってきた。電話と電話の間隔が長くなっていく。探すのが大変になるほどあちこちに電話をかけたのだろう。ひょっとしたらぼくが目を覚ますもっと前から同じことを繰り返していたのかもしれない。
もういい加減諦めて眠りに就けばいいのに、と思ったところで気付く。一人ではないのかもしれない。
例えば。
「二年参り、とても楽しかったですわ。こんなに楽しいなら来年も……いえ間違えました、今年も早く12月31日になってしまえばいいのに。……くちゅん! それにしても冷えて参りましたわね、どこかで暖を取りたくなりませんか? ここは……いんたーねっとかふぇ……? 初めて入りますわ。えっ、こんなところで新年の儀式をなさいますの? こんなところで?」
ははーん、そういうことか。それで騎士くんは身を粉にして姫様が満足いく儀式に適した施設を探していたわけだな。委細承知。ぼくは納得して、「今から宿泊できますか……まじっすか」の声を子守唄に、正しい起床時間までもう一度寝ることにした。
高知脱藩
時は移ろい、朝。今日は愛媛の北のほうにある松山まで向かう予定だ。まずは高知駅から特急に乗る。
窪川で乗り換え。
一駅だけ乗って若井。窪川若井間は乗車券的にとてもややこしい区間になっているのだけれど解説するのが面倒なので省略。四万十川にかかる沈下橋を渡る(渡って戻るだけ)。沈下橋の説明も省く。欄干がないので増水時には沈む橋。
若井で宇和島行きに乗り換え。窪川から出てる列車なので、沈下橋を見に行くために先回りしていた形。ロスなく見に行けたのは良かった。
途中の土佐大正駅(隣の駅は土佐昭和駅)では、しまんトロッコと新幹線が夢の共演。停車時間が30分もあった。
しばらくは四万十川沿いを列車が走る。良い景色。
四万十川沿いから線路が離れてそろそろ愛媛県。
ちなみに、窪川から愛媛の宇和島に向かう列車は1日4本。割とシビア。高知駅からだと香川県まで戻って松山経由で行く方が本数や諸々込みで便利かもしれない。
ぼくが魂を北宇和島に置き去りにした訳と元日の宇和島
宇和島行きの列車に揺られて2時間30分ほどで北宇和島駅に到着する。ここから列車に乗ったまま観光モードに突入だ。念のため観光モードについておさらいしておこう。
3.同じ都道府県の中の移動は、同じ駅を通らない限り特に制限しない。
4.一筆書はあくまでも「移動」の際に守れば良い。(観光のためにフラフラするのは構わない。以降これを観光モードと称する)
5.観光モードを発動した場合、発動箇所に必ず戻って移動を再開する。(次の都道府県まで観光を称して移動したりしない)(観光モードになって便のいい駅に行き、再開地に止まらない特急に乗ったりしない。再開地に止まる列車ならOK)
https://fujimorijinsuke.com/travel/onestroke-around-japan-day01/
一筆書ルールに準拠するならば、宇和島に「移動」してはならない(みかん色の矢印の通りに「移動」しなければならない)。宇和島の地に降り立つためには、北宇和島で観光モードに入り、宇和島まで行き、宇和島からは北宇和島に停まる列車で戻ってくる必要があるのだ。
イメージで言うと、一筆書魂を北宇和島駅に置いて、再度北宇和島駅で一筆書魂を拾い上げる必要がある、といったところだろう。
一筆書ルールに従って松山まで移動するためには、この辺で2時間くらい待つ必要がある(ルールに従わなければそのまま宇和島から30分待ちで特急が出ている。なお青春18きっぷ利用の場合も同じように2時間待ちが発生する)。ならば、せっかくなので宇和島に行って鯛めしでも食べようじゃないかという寸法だ。
宇和島の鯛めしについて説明すると長くなるので省略するが、簡単に言うと鯛のお刺身を使った豪華な卵かけご飯だ。いつか本場の宇和島鯛めしを食べてやろうと思っていたので、一筆書の途中で宇和島に寄れたのは行幸である。
さあ、いざ鯛めし!
見てください、この色あい。しっかりと色付いたタレに卵が絡んで独特のとろみを醸し出して……いやこれはカレーだ。
簡単に言うと鯛めしのお店は開いていなかった。一軒も。そりゃそうだ。今日は1月1日。お昼から開いているお店なんてあろうものか。
飲食店のありそうなエリアをフラフラした結果、何の成果も!! 上げられませんでした!! 駅前に戻ってみたところ、風情のある喫茶店が奇跡的に開いていたのでそこに入ってランチすることに! しました!
でも、このカレーはきっと想い出に残るはずだ。全都道府県一筆書の途中、1月1日でどこも開いていなかったから代わりに食べたカレー。これはぼくだけの想い出になる。
そんなぼくを見かねてだろうか。お店の人が「これ、滅多に食べられない紅マドンナ」と、デザートを差し出してくれた。
これがなんとも美味かった。甘味がしっかりしていて、どこかとろみを感じさせつつ、みずみずしい。全都道府県一筆書の途中、1月1日でどこも開いていなかったから代わりに喫茶店でカレーを食べたら出てきた紅マドンナの味はきっと忘れない。ほらね、旅をしてたら何もしていなくたって何かは起きて想い出になるんだ。
キパモンバトル勃発未遂
駅に戻ると、窪川あたりから宇和島までずっと一緒だった旅人に出くわした。もしかしてキッパー(18きっぷ使い)かもしれない、とは思っていたが、確信が持てなかった。余りにも装備が軽かったから地元民かもしれない、とも思っていたが地元民の雰囲気もなかったので少し印象に残っていた。ただ、こんな時間まで駅の回りをブラブラしているのだからキッパーで間違いないだろう。
向こうもこちらを恐らく認識していそうだった。何しろ、窪川から2時間40分くらい向かいの座席に座っていたのだから何となく印象に残っていてもおかしくない。向こうもこっちをキッパーだと思ったのではないだろうか。
だが残念ながらそうではない。今日のぼくはヒトフデガキスト、mode:長距離ッパー(長距離きっぷ使い)なのだ。
確かに持っているきっぷのサイズは18きっぷと同じで普通より長い、自動改札を通らないものだ。これは、鳥取で大寒波の影響を受けたがためにこの区間を特急でガンガン移動せざるを得なくなったがために作った、お得な長距離きっぷである。
雪が降りしきる中、列車の運行が止まり(day4参照)、きっぷを求める人もいない窓口でぼくの言ったルートを聞いて四苦八苦しながら係員さんがつくってくれた大切な想い出のきっぷだ(こんなきっぷ作り慣れてないから苦労するのも当然だろう)。
キッパーは互いにキッパーと認識した状態で目を合わせてしまったら最後、キパモンバトル(このきっぷでここまでいったもん! と自分の旅路を披露しあうバトル)がおっぱじまるのが宿命(さだめ)である。
ぼくは鉄道ファンという訳ではないので、そうなったら最後、キパモンバトルに負けて目の前が真っ暗になり所持金の半分を持ち去られてしまうに違いない。それは困る。なのでぼくはその推定キッパーから目を逸らした。だが奴がキッパーならば恐らく、次の同じ普通列車に乗車するはずだ……!
やはり、奴も同じ列車に乗っていた。目を合わせないように離れた席に座る。
無事、北宇和島で停車したのでここから「移動」再開だ。
そしてぼくは宇和島から数えてたった3駅目の伊予吉田駅で、次の特急を捕まえるために降りた。視線を感じたので、例のキッパーの方を見たら、やはりぼくの方を見ていたらしく、さっと目を逸らしていた。それもそうだろう、向こうからしたら、また終点まで一緒になると予想していたに違いない。終点松山で降りたが最後、キパモンバトルで「喰って」やる、と意気込んでいたのだろう。その獲物が訳の分からないところで降りてしまったのだから困惑もするだろうし、訳の分からない定石を外れた行動を取る奴と目を合わせたがために逆に「喰われて」しまってはかなわない。
今頃、あれは一体なんだったのだろうと彼女は悩んでいるに違いない。実はぼくも少し悩んでいる。帰省とかではなさそうな感じで一人旅をしている女性はここまでの旅路では珍しかったからだ。旅をしているにしては持ち物も少なそうだったので一体どう回っていたのだろうか。漫画とかであれば、そこで道を違えたはずなのにまたどこかでばったり出くわすだろうが、現実ではそもそも出くわすはずもなく、出くわしたとて余程のことがない限り声をかけあうこともないだろう。
こうして、出逢ってすらもいない二人は道を違え、別々の旅路を歩み出したのであった。
いざ松山、宇和島の敵を松山で討つ
定刻通りに到着した特急宇和海に乗り、ぼくは夕暮れの松山駅に到着する。
特急で稼いだ約2時間(特急料金は1200円なので割とリーズナブルに思える)を使い、夕飯を食べることにした。
とりあえずネットで「鯛めし」とだけ検索して一番店舗数が多そうなエリアに路面電車に乗って向かう。どこか開いていることを祈りつつ。
お城のふもとにあたるエリアで、やはり松山の方が年越しの観光客が多いからか、ちらほらとやっているお店があったが、その多くが、到着時にはラストオーダーの時間を越えていた。その中で、まだやっているお店を見付けて入ることに成功する。松山にはれっきとした松山鯛めしがある中、ほとんどのお店で宇和島鯛めしもやっているようだったので宇和島鯛めしの人気が伺い知れる。
卵の入った出汁に鯛の刺身をドボン! 薬味を入れてもよし、ついてきたトロロをシメに入れてもよし(トロロはこのお店独自の付け合わせかも)。大満足の御膳であった。
しかしながら結局本場で食べることは叶わなかっ たわけで、次に宇和島に行くときにはしっかりと時間を取って行きたいものである。ただ、そもそも同じ県、本場であることに間違いはないし四国四県内や山陽地方ならまだしも、それ以外の地域で宇和島鯛めしに巡りあえること自体がまれなので、やはり現地に来て良かったと思った。
宇和島鯛めしだけではなく、高知四万十でうなぎを食べたいというのもあるので宇和島四万十四国の左下の方ツアーは個別に開催したいところだ。
一筆書失敗の危機
あと一歩間違えていたら一筆書が失敗していたという事実を紹介して今日の旅路の記録を終えようと思う。みかん色の矢印と緑の矢印を合わせたものが鯛めしを食べに行ったときのルートと次の目的地に向かうルートである(下みかん→下緑→上緑→上みかん)。
何の気なしに移動してしまっていたが、結果としてみかん色が「移動」、緑色が「観光モード」と定義することで事なきを得た。ルール上、観光モードにいつ入るかについての細則を定めていなかったので、結果としてたまたま助かった。
食に目が眩んでヒトフデガキストとしてはあり得ない凡ミスをかますところだった。これは一筆書をしている時に限った話ではない、何事にも気を付けたいものである。自戒を込めて。
まとめ
今日は1日かけて、追加通過県は1つにとどまった。やはり、高知~愛媛間は待ち時間も長い。例えば、四国四県を一筆書するのにあたり、基本的には徳島、香川を経由しない高知~愛媛の移動は必須なので仕方がない。
これを避けるには、土佐龍馬空港に降り立ち、特急で徳島、香川を経由して松山に向かい、フェリーで広島に抜けるという方法がある。これが叶えば12時間程度で四国を抜けられるタイミングがある。もちろん、逆もまた然りだが果たしてそれは旅としての楽しさがあるのか些か疑問ではある。だが、全都道府県巡りRTA(リアルタイムアタック)であるとか、全都道府県一筆書RTAなどのバリエーションを行う際に有用であるので、そのようなことを企図している人には是非参考にしてもらいたい。
今日のお宿のコーナー(次回未定)
一筆書では四国を脱出するために海路か空路を用いる必要がある。移動しつつ夜を過ごせるのだから実に効率的である。このルートを思い出して良かった。このフェリーがどこに到着するかは、また明日の投稿で紹介しようと思う(調べればすぐ分かるが)。
このページをかいたひと:藤盛仁輔
ライター。このサイトでは半年で日本二周したときに訪れた場所についてなどをかいています。