※この投稿は5分から10分程度で読めそうな内容です。たぶん。
ある日の朝のことである。ひとりのぼくが、家の中で雨やみを待っていた。狭い家の中には、このぼくのほかに誰もいない。……と、羅生門のように書き出してはみたものの、その内容はただの日常的な雑記である。
「お刺身食べたいなァ……」
数日前から生魚のたぐいを食べたいと思っていたのだが、なかなかタイミングが合わず食べに行けずにいた。こうなってくると、その先の展開としては主に2通りある。いつの間にか食べたい気持ちが薄れていって気にならなくなるパターンと、どうにも我慢がきかず魚を求めてどこぞに出かけていくパターンだ。
前者の場合はまあどうでもいいのだが、後者の場合はヘタをすると居ても立ってもいられずどこか魚の美味しそうな海沿いの街に向けて旅立ってしまう危険がある。居るも立つもならないのであれば臥せていればいいとかそういう姑息療法を思いつかないでもないが、これはただの揚げ足取りなので却下されるべき方法であろう。
さて、勢いで日本一周してしまう癖のあるぼくとしては、ぼくの旅立ちは何としても押しとどめなければならない。スポンサーがいるわけではないので、そう簡単にできることではないのだ。日本一周の足がかりになってしまいそうな長距離移動の可能性を潰しておかねばなるまい。
魚を食べるとなれば、回転寿司か海鮮を取り扱っている居酒屋ランチあたりが適しているように思う。幸いぼくの住んでいる大須という名古屋屈指の商店街には、回転寿司も海鮮を取り扱っている居酒屋もある。回らない寿司や少し高級な日本料理のお店なんかもあるが、今回は考えないものとする。
と、いうわけでぼくはあるいて数分もないような距離にある海鮮料理のお店にランチを食べに行くことにした。
刺身だけのつもりが、色々と付いているものを注文してしまった。このお店は海老しんじょ揚げを名物にしているようだったので、であれば刺身もしんじょ揚げも、となるのが心情だろう。ちなみに「しんじょ」に関してはおぼろげな知識しかなかったので少し調べてみた。すり身を揚げたもの、くらいの認識だったけれど、山芋と卵白を使用しているのが主な特徴のようだ。
焼き魚からはうっすらと柚子の香りがした。しんじょも、煮物も、肝心の刺身もおいしかったので、いい選択をしたなと思った。
さて、ここで問題になるのが刺身だ。恐らく、マグロ、ブリ、タイだと思う。もちろんおいしければ何でもいいじゃないかと言うぼくもいる。だが、別のぼくが言うのだ。名前は大事だと。たとえば、「あの店で食べた名前の分からない魚がおいしかった」と言うとなんともしまらない。
マグロ、ブリに関してはまあ間違いないと思う。これはブリじゃなくてハマチだカンパチだヒラマサだみたいな話もあるけれどここでは一旦脇に置こう。問題はタイっぽい何かだ。というか9割方タイだと思うのだけれど、はっきりしない。正確性を心掛けて表記すると「あの店で食べたタイのようなものがおいしかった」ということになってしまう。
そこで、一応、念のため、魚の名前が分かるというアプリを導入して調べてみることにした。「フィッシュ-AIが魚を判定する魚図鑑」である(App Store/Google Play)。
導入するとスタミナが2つ配布される。減ったスタミナは時間では回復せず、広告の動画を見ることで回復させることができる。自分の場合は30秒の動画が表示され、スタミナが2回復した。
スタミナ | 価格 | 1スタミナあたりの価格 |
---|---|---|
10 | 120円 | 12円 |
100 | 350円 | 3.5円 |
500 | 490円 | 0.98円 |
120(*) | 800円(*) | 6.7円(*) |
(*) :広告を見てスタミナを増やすときの独自計算。1時間あたり最速で120回。800円は大体の最低賃金。
表を見て分かる通り、スタミナはまとめ買いした方が間違いなく得なので、スタミナを購入するなら500が一番おすすめ。逆にスタミナ10は広告を見てスタミナを増やすのよりも効率が悪い。スタミナ500なら広告を見るよりも6~7倍効率がいいので、購入するならスタミナ500で決まり!
……というような論法が成り立つものの、500回も判別するような状況ってあるかなあ……。よほど特殊な状況だと思う。あと最低賃金を持ち出してきて広告を見る労力を支払う金額と並べる手法はやや問題がないだろうか。
脱線どころではない脱線をかましたが、ただ単にタイらしき刺身がタイの刺身だと確定するためにアプリを利用してみた、くらいの話である。くらいの話だった。
ここでアプリにこの写真を読み込ませる。食事中になにをやっているのだろう。食べ物で遊ぶな。
なるほど、タイのようなものはヒラメのえんがわだった。んなこたあない。流石にそれは違うというのは海なし県で育ったぼくにでも分かる。あと名前の背景が「テッテレー」みたいになってるのがじわじわくる。まあ候補は5つ出るので、トップ候補以外も見てみる。
カワハギ、タチウオ、スズキ、ヒラメ。食べ終わって帰った後に色々調べてみたところ、スズキが多分正解に近い気がする。スズキの刺身は夏が旬ということも合わせて考えればスズキが正解とみてよさそうだ。タイは候補にすら上がって来なかった。
ぼくの味覚のあてにならなさを証明してしまったが、結果としてタイのようなものと勘違いしていたものがスズキのようなものだと分かったので良しとしよう。こういう事を書かなければ、もっと教養がある人間だというハッタリを利かせることができる気もするが気にしないことにする。
試しに、もう少し単体で見えるような写真も読み込ませてみることにした。
刺身ですらなくなった。多分、AIに受け渡すときに料理として認識しやすい画像の方が刺身として認識しやすいのかもしれない。
話は以上である。ここからは余談。
ぼくが魚の定食に舌鼓を打っている間、予約のお客さんが4人ほど入ってきた。実際に目で見た訳ではないが、店員さんがそういう風に言っていた。別に盗み聞きしていたわけではない。聞こえてしまっただけだ。
奥に入っていったお客さんたちはビールを注文したようだ。別に盗み聞きしていたわけではない。聞こえてしまっただけだ。
「予約のお客様の鮎の定食ご用意お願いします」
別に盗み聞きしていたわけではない。聞こえてしまっただけだ。ちなみにランチメニューには鮎の定食はないので、予約専用メニューだろう。鮎、鮎か……。天を仰ぎかけた。郡上八幡の清流が浮かぶようだった。実際に目の前にあったのは木のカウンター席だったが。
保存された古い城下町の景観。鮎のコース料理。郡上八幡の清流を眺めながら飲んだサイダー。
また、郡上八幡に行きたくなった。魚の美味しそうな海沿いの街に向けて旅立ってしまう危険を防止するために出かけてきたというのに、これでは本末転倒である。盗み聞きなぞするものではない。いや、聞こえてしまっただけだが。
このページをかいたひと:藤盛仁輔
ライター。このサイトでは半年で日本二周したときに訪れた場所についてなどをかいています。