夢にまで見た松浦アジフライを食べに行った話(うらばなし)

うらばなし

この投稿は、以下の紹介記事「アジフライの聖地!? 長崎県の松浦アジフライ7選! ここにしかないアジフライを食べに行こう」の裏話をかいたものです。この投稿は記事というよりは読み物に近いかもしれません。

全3ページに渡り、松浦アジフライを求めて歩き回った様子をかいています。

アジフライの聖地!? 長崎県の松浦アジフライ7選! ここにしかないアジフライを食べに行こう

1日目 01.ジョイフルで朝食を

2020年11月(*1)のある木曜日、朝9時。いわゆるド平日の朝。ぼくは長崎県松浦市にある、ジョイフル松浦店に来ていた。知らない人のために念のため紹介しておくと、ジョイフルというのはほぼ全国区のファミリーレストランチェーンだ。

朝早くからファミリーレストランにいるというと、出勤前のモーニングセットだとか、会社をサボってフラフラと行くあてもなく来てしまっただとか、そんな話の展開もありそうだがそうではない。

ぼくはここにアジフライを食べに来た

ぼくは、ここに、アジフライを食べに来た。何を言っているのか分からない人がいるかもしれないので繰り返した。

ジョイフル松浦店。のぼりにはアジフライ聖地と書いてある。残念ながら裏返しだ。
ジョイフル松浦店。のぼりにはアジフライ聖地と書いてある。残念ながら裏返しだ。

(*1) この頃はGo To施策が大々的に行われている時期だった。一人旅で、大規模な接触は避けていたので危険や迷惑をかける可能性も低かったが、念のため当時言われていた、通りいっぺんの感染対策や、毎日の体調チェックは欠かさず実施していた事を付記しておく。

0.ここまでのあらすじ

あらすじと言うと、連載のように誤解されるかもしれないが、別にこの投稿は連載ではないので安心してそのまま読み進めて欲しい。そもそも「ぼく」という人物はなんなのか、なぜアジフライを食べに来ているのか、ついでに松浦までどうやって来たのか、辺りを簡単に紹介することにしよう。

「ぼく」という人物は何なのか

2020年11月の当時におけるぼくの身分は会社員だった。ただし、退職日を前にして40日にも及ぶ有給休暇を全ツッパしている期間だったので、その実は悠々自適な自由人だ。

当時住んでいたのは中部地方にある愛知県名古屋市という知る人ぞ知る地方都市だ。愛知県から長崎県はまあまあとは言えないレベルに遠いので、ちょいとモーニングを食べに来たという訳ではない。このときのぼくは旅行中の身だった。

細かい事をいちいち言い出すと話がいつまでも進まないので、やや話を巻いていこう。結果から言うと、このときのぼくは日本一周旅行中で(結果として日本一周になった)、日程的にはおおよそ折り返し地点にいた。

なぜアジフライを食べに来ているのか

会社員として(多分)真面目に職場に通っていた当時、自分と同年代の同僚の中で一大ムーブメントを巻き起こした居酒屋があった。うまい地酒が飲めて、料理もうまい。会社から名古屋駅に向かう途中、ちょっと寄り道するのに丁度いい場所にある居酒屋だった。

このお店は、本日のおすすめが本当におすすめだった。目利きの大将が市場(しじょう)に出向いて仕入れてきた食材で、料理の腕を振るうのだ。季節どころか日によっておすすめが違うので、一度逃すと二度と食べられないメニューもあった。

ある日、アジフライが本日のおすすめの中にあった。当時のぼくはアジフライというものが余り得意ではなかった。青魚特有の香りがどうにも合わなかったのだ。ところが、このアジフライはとても美味しかった。

それまで見た事もない位の大きなサイズで、衣の中に閉じ込められた身は大振りながらしっかりとしていて、苦手な特有の香りもなく、脂乗りもいい。こうしてぼくの好きな食べ物に突如としてアジフライが加わった。

改めてメニューを見ると、長崎産と書いてあった。調べてみると、長崎の松浦というところがアジフライの聖地らしい。このアジフライが食べたくて何度かこの居酒屋に行ったが、このお店では二度とそのアジフライに巡り合う事はなかった。

こうなったら現地に行って食べるしかない。そう思いを募らせること数年。ぼくは会社を退職して、結果として日本各地をウロウロする事になった。その途中、松浦を目的地の一つにする事を思いついたのだ。

松浦までどうやって来たのか

旅行の行程(*1)をいちいち説明すると本題からどんどん離れていってしまうので、簡略的に説明しよう。熊本港からフェリーで長崎県の島原港に乗り付け、島原鉄道とJRを乗り継いでハウステンボスで2泊。そしてこの日の朝。

早朝のハウステンボス駅
早朝のハウステンボス駅。JRの駅です。
日本最西端の駅、たびら平戸口
色々注釈がついて日本最西端の駅になる、たびら平戸口

始発でハウステンボスから佐世保に出て、そこで松浦鉄道に乗り換え。日本最西端の駅たびら平戸口(*2)を経由して佐世保から約2時間。念願の松浦駅に到着。そして松浦駅で、恋焦がれた松浦アジフライのガイドブックを獲得し、ジョイフルに至る。

松浦アジフライのガイドブック
松浦アジフライのガイドブック

*1 名古屋からスタートして紆余曲折を経て北海道まで行き、北海道から沖縄、鹿児島…というルート *2 少々注釈が要るがここでは省く

1日目 怒涛のアジフライラッシュ~朝、昼、昼、昼、夜~

1日目 01(re).改めて、ジョイフルで朝食を

そんな訳で念願のガイドブックを手に入れ、駅から数分歩いたところにあるジョイフル松浦店にやってきた。ここは、松浦駅付近にある「松浦アジフライ」を取り扱うお店の中では最も早く開いているお店だ。

なお、事前に電話でお店に確認したところ、営業は8時からだがアジフライの取り扱いは9時ころからとのことであった。それはつまり、毎朝ちゃんと魚市場からアジを仕入れているという事を意味しているのではないだろうか。期待が膨らむ。

ジョイフル松浦店限定メニュー、アジフライ定食
ジョイフル松浦店限定メニュー、アジフライ定食

これで税込み724円。とにかく安くてうまい。ファミリーレストランのメニューは、全国どこでも食べられるものだが、このメニューはこの店舗限定。地域限定ですらなく、正真正銘、この店舗でしか食べられない

この時点で感動も相まってかなりの満足感があった。しかし、せっかく来たのだからここだけで終わる訳にはいかない。ほとんど人がいない平日朝のファミリーレストランでのんびりと過ごした後、次の店に向かった。

関連ランキング:ファミレス | 松浦駅

1日目 02.うなぎ屋のアジフライに開店アタック

割烹旅館 鶴屋入口。アジフライの案内はない
割烹旅館 鶴屋入口。アジフライの案内はない

さて、次は11時開店のお店に。このお店は旅館に併設。入口を入ったところはちょっと大きな民家のような雰囲気で、あまり飲食店に見えない。間違えたかと思った。案内されるまま廊下を曲がっていくと、飲食店らしさのある部屋に辿り着いた。ほっとした。

うなぎのみ
うなぎのみ

しかし。店の前に出ているのぼりやメニューにはうなぎしか書いていない。もしかしてアジフライを取り扱っていないのではないだろうか。店の人にアジフライってありますか、とおずおず聞いてみると冊子のメニューが出てきた。ちゃんとアジフライがメニューに書いてある。店を間違えたかと思った。ほっとした。

いけす
アジフライって海の中を泳いでるんですよね

アジフライと刺身の両方が食べられる、ハーフ&ハーフを注文すると、いけすから1匹のアジがさらわれていった。なんとも生々しいことだ。有難く命を頂こう、なんて神妙になりつつも、これは新鮮なものが食べられるぞ、と期待感が膨らむ。

アジ刺身とアジフライのハーフ&ハーフ
アジ刺身とアジフライのハーフ&ハーフ

実に生々しい状態。アジの刺身自体はほとんど食べた事はないので、「ふーん、こんな感じなんだね」という感想になってしまうけれど、アジの刺身を食べられるのは貴重な体験だった。

さて、肝心のアジフライ。フワフワで肉厚。ぼくが食べたかったのはまさにコレだ! 全部をフライにしても良かったかもしれない(全部刺身or全部フライorハーフ&ハーフが選べる)。いや、やはり刺身も食べておきたかったし…まあハーフ&ハーフが結果として正解だったのだろう。

価格は残念ながら手元に記録が残っていないけれど、口コミサイトを確認すると1600円だったので多分そうだと思う。

正直に言ってかなり満足してしまった。ここで終わりでも良かったのだけれど、せっかく来たのだからここだけで終わる訳にはいかない。時間はまだ12時になっていない。一服してから次のお店に向かう事にした。

休憩所兼待合所兼喫煙所(*1)として使用されていると思しきソファーに座ると、松浦アジフライのガイドブックがあった。駅で貰ったものと表紙の仕様が異なっている。恐らく、旧仕様というやつだろう。貰えないか聞こうと思ったが、1部しかなかったので我慢した。

松浦アジフライガイドブックの旧仕様版
中身が少しずつ更新されている

ちなみに、2021年6月現在、こちらのお店は現在飲食部門休止中らしい。再開されることを祈る。

(*1) 恐らく喫煙関係の諸々が2021年4月から厳しくなっているので今の喫煙スペースは別の場所にありそう

(リンク:割烹旅館 鶴屋 情報ページ)

1日目 03.昼前の居酒屋ランチ

めしや割烹栄 外観
めしや割烹栄 外観

徒歩2分。次に行くお店までの距離だ。大変便が良いが歩いて腹ごなしもできないような距離と考えると少し辛いものがある。元々半径100メートルちょっとの範囲に、松浦アジフライを取り扱っているお店が数軒あるような大漁エリアなのだ。仕方がない。

とんかつよりも高いアジフライ定食
とんかつよりも高いアジフライ定食

居酒屋の昼営業。アジフライ定食は1000円。トンカツ定食が950円なので、アジフライの方がトンカツよりも価値が高い。なかなか見られない価格差だ。なおアジ定食は1500円。恐らく刺身が出てくるのだろう。

この街にいるとアジの刺身が普通に思えてくるが、そもそもそんなにお目にかかれるものではない。何も知らずに観光に来ていたら間違いなくアジの刺身の定食を選んでいただろう。しかしぼくはこの街にアジフライを食べに来ているのだ。

この店では仕入れ状況によっては、骨せんべい付きでアジフライが提供されることもあるらしい。残念ながらこの日は通常のアジフライだった。とは言え、写真では伝わりにくいが、出てきたものもなかなかのサイズ。かなり大振りで、箸で持ち上げると重い。

肉厚で、旨味もギュッと詰まっている。アジフライにはしょうゆやウスター、タルタルなどのソース、時には塩やマヨネーズなどの調味料を合わせる事が多いが、ここのアジフライは何もつけないのが一番いいと思った。というより、アジの味がしっかりしているのでそのままで食べたくなる、そんなアジフライだった。

正直に言ってかなり満足してしまった。時刻は12時を回って少し経ったあたり。朝から三連続でアジフライ定食を食べている。満足というよりは「もう食べられない」に近い。

普通だったらもうそれだけ食べたらいいだろう、となるのだが、これで終わる訳にはいかない。積年の憧れが、ぼくに止まるな、と言っている。定食がきついなら次は趣向を変えてコーヒーとアジフライサンドを食べに行け、と。

徒歩1分の距離に、アジフライサンドを出すお店があった。近い。近すぎる。腹ごなしもへったくれもない。大漁にもほどがある。無理矢理食べるのも失礼だろう、ぼくはそう結論付けて、アジフライストリート(ぼくが勝手に呼んでいるだけだ)から駅の方に歩いて行った。

(リンク:めしや割烹栄 情報ページ)

1日目 03-04.小休止

アジフライストリート(ぼくが勝手に呼んでいるだけだ)は駅の南側、大体駅から300mくらいのところにあるが、反対側にあたる駅の北側にはホームセンターがあった。ぼくは腹ごなしがてら、そこまで歩いていく事にした。

現代人であるぼくにとっては、旅をしている間にスマホによる調べものは必須である。スマホ単体のバッテリーでは心もとないのでモバイルバッテリーを持ち歩いていたが、そのケーブルの接触が悪くなってしまっていたので、腹ごなしがてらケーブルを買いに行くことにしたのだ。これは買い物と腹ごなしの一挙両得になる一石二鳥のいい手である。

スマホによる調べものが必須、と書いた一方で、スマホに頼らず旅をしてみたい、そんな気持ちも湧く(湧かない人の方が多い気もするが)。ちなみにこの時期より後の話ではあるが、乗り換え案内を封印した状態で果たして旅ができるのか、そう思い立って旅をしたことがある。まあまあ大変だった。

封印したのは鉄道の乗り換え案内だけではあったけれど、名古屋から出発して函館に寄ってから宮崎の高千穂まで行き、無事名古屋に戻ることができた。移動距離だけでいうと、ほぼ日本縦断を2回していることになるので実質また日本一周したわけだ。この模様はまた何かの折に書こうと思う。

今度は乗り換え案内だけではなく、スマホによる調べものを完全に封印した状態で旅をしてみたい、そんな風に思わないでもない。いつかやろう。そんな余談をしている間に13時を回った。昼営業が終わる前に次のお店に向かわねばならない。

ホームセンターに向かうときは駅を迂回して幹線道路沿いを歩いたが、帰りは駅の近くを渡れる跨線橋を通った。

1日目 04.昼時最後のアジフライ

食味酒処あじ彩外観
とらふぐと肩を並べる鯖。店名はあじ

店に着いたのは13時25分。ラストオーダーが13時30分なので、とんだ迷惑客だ。だが仕方ない。こちらは朝から3食も揚げ物の定食を食べているのだ。ギリギリまで消化を待って入店時間を決める位の事は許して欲しい。

あじ彩りのいけす
いけす。どのいけすに何がいるかはちょっと分からない

入口を入るといけすに出迎えられた。いけすは今日2つ目だ。おしゃれなBGMが流れていた。調理を待つ魚はずっと音楽を聞いていることになる。もしかしたら美味しさの秘訣かもしれない。多分考えすぎだろうけれど。

あじ彩のアジフライ
大きいアジフライ。手作りっぽいソースがついてくる。

アジフライは恐らく1尾分で、2枚に切られている。1尾としてのサイズはここまでの行程の中では最大級だった。身は良く締まっていて、口に入れるとほぐれ、蒸し物のような雰囲気もある

食べ終えて14時。そろそろカフェタイム。徒歩1分のところにある、アジフライサンドとコーヒーを出すお店に行く時間だ。が、やはり朝から総計4食のアジフライ定食を食べている。

流石にこれ以上立て続けに食べるのは無理ですね、少し時間を置いてください。ぼくの中のドクターがストップをかけてきたので、1度宿にチェックインする事にした。

(リンク:食味酒処あじ彩 公式サイト)

1日目 04-05.宿へ

駅まで戻り、荷物を回収して宿に向かう。宿は松浦駅から1kmの距離にある。タクシーで向かうこともできたが、ちょうどいい腹ごなしになるので歩く事にした。1km程度、あっというに到着するというのがここまでの旅で分かっていたというのもある。

しかし、あっという間ではなかった。宿に着いたぼくはひいひいのはあはあだった。宿への道のりの半分は、スキーで滑り降りたら楽しいだろうな、と思う程度にきっちりした勾配のついた道を登ったところにあったのだ。

平地に比べて、上り坂は5倍くらい体力を使う、というのもここまでの旅で学んだことだった。上り坂で500mくらいあったので、平地換算だと2.5km歩いたくらいの体力を使ったと思う。荷物もまあまああったので、素直にタクシーを使えば良かった。

特に細かいことを調べずに宿を予約したのが裏目に出た。だが、嬉しい知らせもあった。なんと、この宿と松浦アジフライを出すお店の一つが提携していて、宿の食堂以外で夕食を食べる人向けに送迎をしているというのだ。

渡りに船ならぬ坂道にマイクロバスだ。いや、マイクロバスかどうかはチェックインした時点では分からなかったが。送迎は20時までという事だったので、行きだけ送って貰って、帰りは送迎を利用せず、周囲のお店の営業時間とぼくの消化器官がもつ限りハシゴして一杯やりながらアジフライを食べ歩く。実に魅力的な計画だ。飲みに行く前にアジフライサンドでコーヒーを一杯やるのもいい。

宿には大浴場があったのでひとっ風呂浴びたり、ホームセンターで買った充電用ケーブルの調子を確認したりしながら、夜までのひと時をのんびりと過ごした。ここまでの旅は夜遅い時間のチェックインになりがちだったので、昼過ぎから夕方までをこういう風に過ごせたのは贅沢な時間だった。テレビを点けると、大相撲中継がやっていた。

1日目 04-05(ex).いざ、夜の市街地へ

大相撲中継が終わり、ニュース番組が始まったところで天気予報を注視する。旅の途中なのだから天気を気にするのは当然である。これは別にこれまでの旅路で天候不良によって沖縄県にある日本最南端の有人島、波照間島に日帰りの積もりが3日間閉じ込められたことがあったからトラウマになって夕方の天気予報を見るのが日課になったとかそういう事ではない。なお、閉じ込められたのは本当だ。この日は、特に天気を気にかける理由があった。本当は波照間島に向かう前にも真面目に天気予報と向き合うべきだったが。

天候不良などによる不漁の場合にはアジフライが提供できないお店がチラホラあるらしいので、空模様と海模様は大いに重要なのである。基本、その日に獲れたアジしか使わないということだろう。新鮮さを売りにするのは大変である。

この夜ぼくの胃に収まる予定のアジは既に朝の時点で水揚げされているが、明日の分はまだこれからだ。どうやら天気は余り良くない、そんな予報だった。少し心配になるが、アジ漁がうまくいく事を祈った。これは他人事のような自分事だ。

1日目 05.改めて、夜の市街地へ

一期一会外観
素敵な名前

さて、さっそく夜の1軒目。時間は21時を過ぎていた。理由は良く分からないのだが、宿から出発したのは21時になる少し前になってしまったので到着が遅れてしまった。送迎はもう終わっていたので徒歩で市街地に向かったが、下りなのでそこまで苦ではなかった。

なぜこんなことになってしまったのだろう。手掛かりになりそうなのは、18時台の天気予報を確認した後、なぜか次に放送された番組が20時台のものだったことだ。そして20時台の時点ではぼくは何故か浴衣を身に着けておらず、全裸だった。

着替える途中に寝落ちするとは余程疲れていたのかもしれない。風呂に入って相当リラックスしてしまったのもあるのだろう。

一期一会のアジフライ
一期一会で一期一会のアジフライ

そんなわけで出遅れてしまったが、無事、アジフライにありつけた。一口目を噛んだ瞬間から、おいしい。脂をまわしてある(いわゆる熟成)、とのことで身はとても柔らかく、旨味を強く感じた。そして肉厚感はトップクラス。

このお店で現地の人から聞いたのだが、この地域はアジがたくさん獲れる地域ではあるものの、現地の人はアジフライを余り食べないらしい。刺身で食べてしまうから、と。確かに、刺身で食べられるなら刺身が一番いいというは魚介類における一般的な認識だとは思う。

これは書くか書かないか悩ましいところなのだが、実は松浦がアジフライの聖地であると宣言したのは2019年の事らしい。それまでは刺身が主流だったのは当然かもしれない。

もちろん、宣言の前にアジフライがなかった訳ではないだろう。冒頭に紹介した居酒屋でアジフライを食べたのは2019年よりも前だったはずだ。そこで調べた時に既に聖地だったような気もするが…何か記憶が混濁しているかもしれない。

ぼくの記憶が混濁している可能性には一旦目をつぶるとして。2019年の宣言の前にアジフライがなかった訳ではないだろう。アジフライあれ、と偉い人が言ったからアジフライができた、という話を聞いた事はない。新作レシピのご当地グルメの場合はそういう事もあるかもしれないが。

仮にアジフライがあったとしても、刺身で食べられるなら刺身がいい、それが現地の人の考えなんだろう。だが、次に来た時もぼくはやはりアジフライを選ぶと思う。刺身も食べるとは思うが。なぜならば、ここまで食べてきて、松浦アジフライはただ新鮮なアジを揚げただけ、という訳ではないと思ったからだ。

松浦アジフライを出すと自負しているお店で出てくるものはフライとしても拘っている、そう感じた。素材や固定のレシピに胡坐をかかず、各お店で相違工夫しているからだろう、色々なフライがあって、それぞれ違ううまさを兼ね備えているのだ。

次はどんなアジフライに出会えるのだろう。アジフライに彩られた楽しい夜が待っている。期待に胸を膨らませ、この店を後にした。こののれんは、輝かしいアジフライステージの幕なのだ。一期一会の幕が開く、なんともシャレているではないか。

しかし、この後のぼくの夜を彩ったものは、このときに期待していたものとは違うものになった。

(リンク:小料理屋 一期一会 Rettyページ)

夜、二軒目

結論から言うと、この夜、ぼくは追加のアジフライにはありつけなかった。

タイトルとURLをコピーしました